散歩と料理と小説と俳句と丸々
散歩は、糖尿病と心筋梗塞予後のためにしなくてはならないので、デジカメを持って我が家の近所を歩き回っています。 料理は、奥さんが働いているので夕飯を作ります。 小説は、夢を見続けて、小説家を目指しています。
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『白い森の彼方で』*** Chapter 04 物語は始まった ***
『白い森の彼方で』04

佐藤 均


*** Chapter 04 物語は始まった ***

 階段の途中から下まで、まがまがしい悪意が淀(よど)んでいた。
 汚れきった沼地の、汚染されたどぶ臭い水がゆっくりとたゆたっているようだった。
 つま先がその淀みに浸かった途端、悪寒が身体を走り抜けた。
 厭(いや)な予感がした。
 駅の階段を降り切ると、駅前のロータリーには北風が吹き荒(すさ)んでいた。
 北風には冷気ばかりか、疎(うと)ましい気配が込められていた。
 ロータリーにはバスの発着停留所が並んでいた。それぞれの自宅方面行きのバスを、長蛇の帰宅者たちが寒空に身を震わせて辛抱強く待っていた。
 かなりの台数が待機するはずのタクシープールには、一台のタクシーも見あたらなかった。フル回転でピストン輸送を繰り返し、時間待ちの列を少しずつ崩している。
 駅前は照明の明るさに充ち満ちているはずなのに、人には暗い陰がへばり付いていて表情が識別できなかった。
 数学の問題がなかなか解けず、塾からの帰りがいつもより多少遅くなったが、真夜中というわけではなかった。
 自宅方面に行くバス停には黒塗りの大型乗用車が停まっていた。着色された窓ガラスから車内は窺えなかった。帰宅者の迎えの車だろうと推測したが、停留所に横付けしているふてぶてしさに小さな怒りが込み上げてきた。それが切っ掛けとなった。バス待ちの最後尾に暫く並んでいたが、到着の時間に間隔が空いたバスを、冷たい風の中で長い時間待つ気がなくなった。
 むしろこのおぞましい空気の中から早く抜け出したかった。
 町はできたばかりで、何処も彼処も新しくおしゃれだった。歩いて帰っても、商店街から家までの道は明るい。昔のガス灯を思わせる街灯が等間隔に設置され、歩道に明暗の連なりを作っている。
 愛子はバス停を離れて歩き出した。
 途端にコートを突き抜けて冷気が差し込んできた。冷気はそのまま背筋を凍て付かせるほどの恐怖に変わった。耐えきれないほどの悪意の気配が、もの凄い勢いで背後から迫ってきた。
 愛子が振り返ったとき、バスの停留所に停車していた黒い車が爆発した。
 中心部の白熱した輝きが一瞬に膨張して、爆発色の光が全てを粉々に打ち砕いた。
 鉄の破片やガラスが飛び散り、たくさんの肉体がバラバラになって飛散した。
 その直後、音速の熱風が衝撃波となって愛子の身体を吹き飛ばした。
 耳をつんざく大音響が轟いた。
 身体がバラバラに切り裂かれ、焼き尽くされた。

「私は死んだのか」
「そうだ」
「ここは、死後の世界なのか」
「前世と来世の狭間(はざま)だ」
「この身体は」
「永遠に続く生命(いのち)だ」
「生命が続くとは」
「永劫(えいごう)の時が教えてくれる。これで前世の染(し)みはすべて消えた」
 甲冑の男が剣を抜いた。
「人は死を知り、前世を忘れ、浄化する」
 刀身(とうしん)が炎を反射して眩(まぶ)しく輝いた。輝きは抜き身全体に広がり、剣自体が青白い陽光の強さで光った。手で眩しさを遮(さえぎ)った、それでも眼を開けていられなかった。
 まばたきの瞬間に漆黒の甲冑が目の前に迫っていた。頭上から光が降り下ろされた。避けられなかった。頭から身体の奥に衝撃が抜けた。
 衝撃は、温かだった。全身がまったりとして気持ちが良い。安らぎが心にも身体にも広がって行く。ふっと身体が軽くなった。
 眠い。眠い。ねむい。
 光の刃が打ち下ろされた跡に人影はなく、強く輝く光の塊(かたまり)が浮かび現れた。
 両腕に抱えるほどの大きさに膨らんだ綿毛のような光の玉は、空中を星空に向かってゆっくりと揺らぎ昇っていく。
 その強烈な光彩は、他の白い森から立ち上る生命塊の玉たちを遥かに凌駕(りょうが)していた。
 彼の住む森の中に迷い込んできた生命(いのち)たちを、太古の昔から彼は浄化してきた。
 その彼ですら過去に見たことがないほどの強い光の輝きだった。
「この生命(いのち)の、生命力(せいめいりょく)の輝きはすごい。この者が、やはりそうなのか。この生命(いのち)が、わたしのこの身体を、この世界を浄化するのか」
 記憶の淵に埋められていた大昔からの伝承の物語が、彼の手元から、今、正に始まったことを彼は知った。
 物語の幕を開けた虹色に光り輝く剣の刃を、彼は暫くじっと見詰めた。
 光を渦巻き、激しく脈打つ刃の興奮が冷めるのを待って、彼はゆっくりと鞘に剣を収めた。
 その刹那、役目を終えた男の意識は閉ざされた。
 男は枯れた白い木の森の中の消えた焚き火の許で眠りについた。
 男が今までに吸い取った無限の記憶が彼のみる夢だった。




【2008/11/09 06:41】 | 白い森の彼方で | TRACKBACK(0) | COMMENT(0)
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