散歩と料理と小説と俳句と丸々
散歩は、糖尿病と心筋梗塞予後のためにしなくてはならないので、デジカメを持って我が家の近所を歩き回っています。 料理は、奥さんが働いているので夕飯を作ります。 小説は、夢を見続けて、小説家を目指しています。
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し~らかんす21の会(11/8)
し~らかんす21の会(石神井高校21回生同期会)が、2008年11月8日(土)17:00から、吉祥寺第一ホテルにて開催されました。出席予定人数は88名でした。

幹事さん、ご苦労様でした。


�y���b 写真画像クリックすると大きな画像になります。 �s�[�X

※大きな画像が元画像です。コピーは解像度の良い元画像からしてください。

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昭和44年3月卒業(1968年、40年前)3年B組(B組だけでごめんなさい)


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2008年11月8日・・・・何と40年振りに会う友人たち。一瞬のタイムスリップで当時の面影が甦る不思議さを味わいました。そして、記憶が成長することをしりました。入口に置かれた40年前の写真。似ても似つかない老人に差し掛かった友の顔。でも、目の前にいるその顔は、記憶の中では石神井高校の校舎の中で笑っていたあの顔なのです。


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3年I組。ただお一人ご臨席を賜った担任の先生を囲んで記念撮影です。


一次会は豪華な立食パーティーです。
校歌や応援歌を歌ったり、恥ずかしげに手を取り合ってフォークダンスをしたりと幹事さんたちが盛り上げてくれました。

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ここからは、フォークダンスです。

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ここからは二次会です。

IMGP1224_20081110153851.jpgIMGP1225_20081110153912.jpgIMGP1226_20081110153932.jpgここから二次会で盛り上がりました。Loftの地下で4部屋に分かれて、おしゃべりやカラオケです。

IMGP1227_20081110153949.jpg IMGP1228_20081110154007.jpg IMGP1229_20081110154028.jpg IMGP1230_20081110154057.jpg
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IMGP1275.jpgIMGP1276.jpgIMGP1277.jpg以上でし~らかんす21の会の写真はおしまいです。
ご自身のお写真と、お友達のお写真と、お好きな方のお写真と、そして、何年ぶりか、あるいは何十年ぶりかにときめいた方のお写真をコピーして大切にしてくださいね。
幹事の方が、次回は二年後、そう、還暦の年に開催すると言われておりました。計画ではなんと、京都までバスでの修学旅行だそうです。
みなさん、、バスの長旅に耐えられるように身体を鍛えておきましょうね。

それでは、健康な老人になれるように頑張りましょう。

それから、コメントを頂けると、ありがたいです。
下の「COMMENT」をクリックして書き込んでください。
また、左の帯に掲示板がありますから、活用してください。


それでは、皆さん、また、お会いしましょう。
おげんきで ヾ(^_^)BYE



ちなみに、写真は、石神井友達のWAのホームページでもご覧になれます。
是非、訪ねてください。
http://www.geocities.jp/shakujii21/index.html


【2008/11/11 08:04】 | 石神井高校 | TRACKBACK(0) | COMMENT(6)
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し~らかんす21の会(11/8)
し~らかんす21の会(11/8)の写真を一時掲載しましたが、皆様、名札を付けられているので、記事を削除しました。
名札の部分を加工した後に、再度掲載します。

注意が至らず、申し訳ありませんでした。




【2008/11/10 22:28】 | 石神井高校 | TRACKBACK(0) | COMMENT(2)
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石神井高校の皆様へ
石神井高校の皆様へ

11月8日の写真の掲載は2~3日お待ちください。
300枚以上の写真なので、容量の調整(500KBまで)と一枚ずつのアップに時間がかかります。
申し訳ございません。

それまでは、わたしのブログを遡ってお楽しみ下さい。
【2008/11/09 23:57】 | 石神井高校 | TRACKBACK(0) | COMMENT(0)
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『白い森の彼方で』*** Chapter 05 二つの波動 ***
『白い森の彼方で』05

佐藤 均


*** Chapter 05 二つの波動 ***

 満天の星空は光の天蓋(てんがい)となり、一つ一つの煌(きら)めきが語り合うように息づいている。
 一際輝きを強くした星々を結んで、語り継がれたたくさんの物語は佳境(かきょう)に入っていた。
 その星空の遥か下、ちょうど雲の浮かぶ高さに淡い光の帯があった。ぼんやりと白んだ帯は風にたなびくようにゆっくりと蛇行しながら流れていた。
 帯は幾筋もあり、暗い地平線の其処彼処から沸き上がり、雲のように漂い、中天に届くと瞬く間に消えた。
 この夜、一筋だけ月明かりを照り返したように強く輝くうすい雲があった。新星にも似た煌めきを中心に包み込み、虹色の輝きを僅かに帯びたそれは、万丈(ばんじょう)に至っても消える事がなかった。
 小さな波動を初めに感じた。ロウはそれで目を覚ました。真夜中だった。
 本震を予想して床の中で彼は身構えた。時を待たずに大波が押し寄せてきた。それは、今までに彼が経験したことがない揺れだった。
 相反する二つの波が相乗し、身体が共鳴して激しく振動した。
 寝床の上で大きく上下に弾んで夜具を飛ばした。部屋が瞬間に掻(か)き消えて、不気味な漆黒の暗闇に包まれた。
 次の瞬間に真っ白な光りが爆発した。怖気(おぞけ)が一瞬に吹き飛び幸福感に満たされた。
 死を覚悟した。それほどの衝撃だった。
 激痛を残してロウの身体を貫いた二つの波動は直ぐに消えた。
 身体は味わったことがないほどの疲労感に冒されている。
 ゆっくりと目を開けると、いつも通りの古めかしさを漂わせた部屋の風景だった。ロウを暖かく包んでいた夜具だけが床に散乱していた。
 まだ鼓動は激しく打っている。荒い息遣いも収まってはいない。意識は朦朧(もうろう)として、身体も痺(しび)れて起き上がれそうにもなかった。
 彼はまた目を閉じた。混乱する思考を立て直しながら、この予兆から何が起きるのかを思い巡らせたが、訝(いぶか)しさだけが残った。
 大惨事が起きる時、重要人物の死、力を備えた者の誕生、それらの予兆を他の誰よりも彼は敏感に感じた。
 悪い時と良い時では、彼を貫く光の色彩や強さが違った。光は温度と明暗の度合を伴ってロウの心と身体を激しく揺さぶった。光の波動のあらゆる情報と長年の経験から彼はかなり精度の高い結論を導き出せた。
 ロウは骨董品めいた木製の外套掛けから白い外衣(がいい)を取って急いで羽織ると外に出た。
 手入れをよくされた庭の端まで潅木(かんぼく)や花壇の間を縫うように歩道が石畳で設えられていた。石畳は円形に広がった展望台で終わっている。展望台の柵の向こうは崖で、闇の先に豁(かつ)然と眼界が開け、宝石の煌めきを広大に敷き詰めた王宮府、アドイが悠(ゆう)然と横たわっていた。
 輝きは都市の中心部に密集している。中心に向かう街道は幾筋もあり、光が帯となって放射状に周辺部に広がっていた。
 逆を辿(たど)れば、周辺部から中心に向かった光の流れは光彩の華やかさを増しながら王宮府に集中し、建物の四方を取り囲み、地上から遥か至高の際まで煌々(こうこう)と翔(かけ)登った。明かりの城壁を纏(まと)った王宮府は不夜城となってアドイの中心にそびえ立っていた。
 周辺部にも所々に光の密集した市街地が点在しているが、そこから先は漆黒の闇で、その闇の広がりは、光に満ち溢れた星空を背景にした、黒々と塗り固められた地平線や山脈の遥か果てまで続いていた。
 手を伸ばせば届きそうな星の煌めきをいっぱいに湛(たた)えた天空をロウはじっと見詰めた。
 夜中のアドイの息遣(いきづか)いが冷たい風のそよぎに運ばれてきた。
 淡く真珠色に光る帯状の雲が浮かんでいる。眼を凝(こ)らさなければ見つけられないほど細くて薄い。夜中のこの時間、曇っていない限り、ロウにはそれが見えた。それはロウの生命力の淵で捉(とら)えられる神秘の現象だった。
 雲は虹色の光を連続して変化させ、生命(いのち)を脈動させていた。脈動は微弱な波動となりロウの生命力の淵に共鳴した。それは喜びであり、幸福感に包まれる至福の時だった。
 絶えず揺れ動く淡い虹色の雲は一脈ごとに様々な色合いの光を天空に飛散させた。あらゆる方向に筋を引いて飛び散った雲の切れ端は夜空に溶け込んで消えて行った。
 消える時に波動は激しく波打った。どこかで誰かが誕生した瞬間だ。
 ロウは彼の特異的な能力でそのことを察知していた。それは先ほどロウを襲った衝撃とは全く別のものだった。柔らかく、穏やかなその波動がロウは好きだった。
 その夜は、満天の星空の中天辺りに、他の雲とは明らかに違う、中心部分を強く輝かせた波動の強い雲があった。
 いつもは楽しんで感じる淡い喜びだが、それとは比較もできないほどの強い感動がロウの胸の内に湧き上がってきた。知らぬまに両頬を涙が流れていた。
「ひとりの人間に死と誕生が同時に訪れることがあるのだろうか。しかも、生命(いのち)の力は桁外れに強い。たぶん、どの王よりも強いだろう」
 先ほど自分を貫いた白く輝く衝撃の安らかな暖かさが、ロウの生命の隅々まで、また広がってきた。
 彼はふと暫く会っていない、いとこのオウリの頭に手を置いた時の温かさを思い出した。




【2008/11/09 06:50】 | 白い森の彼方で | TRACKBACK(0) | COMMENT(0)
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『白い森の彼方で』*** Chapter 04 物語は始まった ***
『白い森の彼方で』04

佐藤 均


*** Chapter 04 物語は始まった ***

 階段の途中から下まで、まがまがしい悪意が淀(よど)んでいた。
 汚れきった沼地の、汚染されたどぶ臭い水がゆっくりとたゆたっているようだった。
 つま先がその淀みに浸かった途端、悪寒が身体を走り抜けた。
 厭(いや)な予感がした。
 駅の階段を降り切ると、駅前のロータリーには北風が吹き荒(すさ)んでいた。
 北風には冷気ばかりか、疎(うと)ましい気配が込められていた。
 ロータリーにはバスの発着停留所が並んでいた。それぞれの自宅方面行きのバスを、長蛇の帰宅者たちが寒空に身を震わせて辛抱強く待っていた。
 かなりの台数が待機するはずのタクシープールには、一台のタクシーも見あたらなかった。フル回転でピストン輸送を繰り返し、時間待ちの列を少しずつ崩している。
 駅前は照明の明るさに充ち満ちているはずなのに、人には暗い陰がへばり付いていて表情が識別できなかった。
 数学の問題がなかなか解けず、塾からの帰りがいつもより多少遅くなったが、真夜中というわけではなかった。
 自宅方面に行くバス停には黒塗りの大型乗用車が停まっていた。着色された窓ガラスから車内は窺えなかった。帰宅者の迎えの車だろうと推測したが、停留所に横付けしているふてぶてしさに小さな怒りが込み上げてきた。それが切っ掛けとなった。バス待ちの最後尾に暫く並んでいたが、到着の時間に間隔が空いたバスを、冷たい風の中で長い時間待つ気がなくなった。
 むしろこのおぞましい空気の中から早く抜け出したかった。
 町はできたばかりで、何処も彼処も新しくおしゃれだった。歩いて帰っても、商店街から家までの道は明るい。昔のガス灯を思わせる街灯が等間隔に設置され、歩道に明暗の連なりを作っている。
 愛子はバス停を離れて歩き出した。
 途端にコートを突き抜けて冷気が差し込んできた。冷気はそのまま背筋を凍て付かせるほどの恐怖に変わった。耐えきれないほどの悪意の気配が、もの凄い勢いで背後から迫ってきた。
 愛子が振り返ったとき、バスの停留所に停車していた黒い車が爆発した。
 中心部の白熱した輝きが一瞬に膨張して、爆発色の光が全てを粉々に打ち砕いた。
 鉄の破片やガラスが飛び散り、たくさんの肉体がバラバラになって飛散した。
 その直後、音速の熱風が衝撃波となって愛子の身体を吹き飛ばした。
 耳をつんざく大音響が轟いた。
 身体がバラバラに切り裂かれ、焼き尽くされた。

「私は死んだのか」
「そうだ」
「ここは、死後の世界なのか」
「前世と来世の狭間(はざま)だ」
「この身体は」
「永遠に続く生命(いのち)だ」
「生命が続くとは」
「永劫(えいごう)の時が教えてくれる。これで前世の染(し)みはすべて消えた」
 甲冑の男が剣を抜いた。
「人は死を知り、前世を忘れ、浄化する」
 刀身(とうしん)が炎を反射して眩(まぶ)しく輝いた。輝きは抜き身全体に広がり、剣自体が青白い陽光の強さで光った。手で眩しさを遮(さえぎ)った、それでも眼を開けていられなかった。
 まばたきの瞬間に漆黒の甲冑が目の前に迫っていた。頭上から光が降り下ろされた。避けられなかった。頭から身体の奥に衝撃が抜けた。
 衝撃は、温かだった。全身がまったりとして気持ちが良い。安らぎが心にも身体にも広がって行く。ふっと身体が軽くなった。
 眠い。眠い。ねむい。
 光の刃が打ち下ろされた跡に人影はなく、強く輝く光の塊(かたまり)が浮かび現れた。
 両腕に抱えるほどの大きさに膨らんだ綿毛のような光の玉は、空中を星空に向かってゆっくりと揺らぎ昇っていく。
 その強烈な光彩は、他の白い森から立ち上る生命塊の玉たちを遥かに凌駕(りょうが)していた。
 彼の住む森の中に迷い込んできた生命(いのち)たちを、太古の昔から彼は浄化してきた。
 その彼ですら過去に見たことがないほどの強い光の輝きだった。
「この生命(いのち)の、生命力(せいめいりょく)の輝きはすごい。この者が、やはりそうなのか。この生命(いのち)が、わたしのこの身体を、この世界を浄化するのか」
 記憶の淵に埋められていた大昔からの伝承の物語が、彼の手元から、今、正に始まったことを彼は知った。
 物語の幕を開けた虹色に光り輝く剣の刃を、彼は暫くじっと見詰めた。
 光を渦巻き、激しく脈打つ刃の興奮が冷めるのを待って、彼はゆっくりと鞘に剣を収めた。
 その刹那、役目を終えた男の意識は閉ざされた。
 男は枯れた白い木の森の中の消えた焚き火の許で眠りについた。
 男が今までに吸い取った無限の記憶が彼のみる夢だった。




【2008/11/09 06:41】 | 白い森の彼方で | TRACKBACK(0) | COMMENT(0)
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『白い森の彼方で』*** Chapter 03 夢の狭間で ***
『白い森の彼方で』03

佐藤 均


*** Chapter 03 夢の狭間で ***

「あなたはだれなの。私をいじめないで」
 小さな女の子は怖(こわ)がっていた。彼女の怯(おび)えが悲しかった。
 話しかけるのだが、女の子には解らないらしい。
 手を伸ばして金色の髪に触れてみた。
 途端に女の子が泣き出した。
 思わず手を引っ込めたが、髪に触れた指の先に温かな安らぎが残っていた。

「女の子の夢を見た」
「どんな夢だ」
「女の子は、わたしを怖がっていた。触れようとすると泣き出した」
「はっきりと、覚えているな」
「覚えている。私は幼子(おさなご)だった。どうしてだ」
「わからない。忘れてしまえ」
「髪に触れた時のあの温かさは、切ないほど懐(なつ)かしかった」
「生命(いのち)の温かさだ。それと」
 黒衣の男は言いかけて黙った。男は焚き火を棒で突いた。静かだった焚き火が燃え上がって、小さな火の粉を踊らせた。

 次の夜も、また次の夜も女の子の夢を見た。
 女の子は相変わらず怯(おび)えていた。
 夢を夢として見ると言うより、現実の事象として理解した。
 目覚めると忘れてしまう他の夢と夢の隙間(すきま)に、織り込まれるように女の子の夢は続いた。
 暫くすると、小さな女の子が少しだけ大きくなっていた。
 その夜、女の子は怖がらなかった。

「名前はなんていうの」
「愛子」
 心にふっと浮かび上がった名前だった。懐かしい気持ちがした。
「私はオウリ。おともだちに、なりましょう」

 白い山が小さく見える地平線まで、まっすぐに伸びた道を黒衣の男と歩いていた。
 立ち枯れた大草原が、道の両側の大地のうねりを覆って遥か地平線まで広がっていた。
 空の濃い青さが金色に輝く草原を鮮やかに浮き立たせている。
 陽は中天近くにあり、二人の影は短い。
 風は凪(な)いでいて、冬枯れの景色の中に居ながら汗ばむほどに暑かった。
「聞いていいか」
「何をだ」
「私が誰なのか、何も思い出せない」
「それでいい」
「違う話だ」
「何の話だ」
「夢だ」
「いつも、見ているだろう」
「夢を見ていたと思うが、目覚めると、何の夢を見ていたのか忘れてしまう」
「それでいい」
「忘れない夢がある」
「知っている。新しい記憶だ。記憶の淵(ふち)に留(とど)まっている」
「何のことだ」
「いや、何でもない。稀(まれ)にあることだ。それも、いずれ忘れてしまう」
「忘れそうにない。名前を思い出した」
 男が立ち止まった。
「愛子だ」
 黒い甲冑の手がいきなり細い肩を掴んで、引き寄せられた。
 黒い瞳がじっと見詰める。
 意識が吸い込まれている。倒れそうになって、よろめいた。
 黒衣の男が諦(あきら)めたように肩から手を離した。
「わたしには、どうすることもできない。新しい夢は紡(つむ)がれて物語になる。物語だけ残り、それがおまえ自身になる」

 燃えさかる焚き火の炎に照らし出された黒衣の男は物思いに耽(ふけ)っていた。
「どうした」
「古い物語を思い出した」
「どんな物語だ」
「導く者たちの、私たちの記憶の奥底に記(しる)された壮大な物語だ」
「聞きたい」
「話すつもりはない。早く寝ろ」

 人形やぬいぐるみが愛子とオウリの遊び仲間だった。
 仲間たちは立って歩き、おしゃべりをして、歌を歌った。
 ある時から、空色(そらいろ)の鎧(よろい)で身を包んだ小さな騎士たちが踊りの輪に入ってきた。
 陽気な彼らは大声で笑い、二人にとても従順だった。
 いつしか二人はお姫様になっていた。
 人形やぬいぐるみたちも、物語の展開に自然にとけ込んでいた。
 新しい仲間が少しずつ増えていった。

 オウリが大きくなると、二人はよく冒険の旅に出た。
 空色の鎧の騎士たちや遊びの仲間たちと、三毛猫までが従者になった。
 森を越え、深い谷を渡った。険しい山道を登り、雪を頂いた高い山の山腹にある魔女の城を目指して旅を続けた。
 魔女との戦いは壮絶を極めた。魔女の呪文から繰り出される様々な魔法に苦しめられた。無尽(むじん)に飛び出してくる魔物たちは一行に容赦(ようしゃ)がなかった。
 三毛猫が参謀だった。作戦は彼がたてた。
 戦いに明け暮れるうち、二人の剣の技は磨かれ、魔法が使えるようになっていた。
 小さかった空色の鎧の騎士たちはおとなの大きさになり、人形やぬいぐるみもそれぞれが得意の技を持ち、頼もしい軍隊になった。
 櫓(やぐら)から敵情を見ていたオウリの許(もと)に三毛猫が駆けつけた。
「大変です」
「どうした」
「愛子様が傷つきました」
 オウリは櫓(やぐら)から飛び降りると、愛子に駆け寄り、抱き起こした。
「傷は浅い。大丈夫だ」
「もうだめだ」
「何を言う。もうじき、城は落ちるぞ」
 オウリが愛子の身体を優しく抱きしめた。
 オウリの柔らかな温もりが気持ちよかった。幼い頃、母に抱かれた記憶が愛子に甦(よみがえ)った。
「おかあさん」
 優しい抱擁(ほうよう)は母と同じものだった。涙が溢れてきて、オウリの姿がぼやけて消えた。
 
 焚き火の火が消えかかっていた。
 涙で滲んで見える梢の先の空が白み掛かっている。明け方に近いのだろう。
 黒衣の男がじっとこちらを見詰めていた。
 思い詰めた眼差しだった。
「あの女の子は母なのか。わたしは、母と遊んでいたのか」
「いずれ解ることだが、おまえは母に包まれる」
「母に会えるのか。母は何処にいる」
「まだ、朝まで間がある。もう少し寝なさい」

 母の葬儀から十日が過ぎた。
 金糸銀糸で刺繍(ししゅう)を施(ほどこ)された布に覆(おお)われて、桐の箱の中に白磁の壺(つぼ)がある。
 母は骨になってそこにいる。
 生まれつき心臓が悪かった。幼なじみの父と結婚して、子供を産むのは無理だと言われていたが、愛子の母親となった。
 日用品、雑貨、駄菓子などを日銭の商いにした小さな店は井戸端のような家で、いつも近所の人たちが屯(たむろ)していた。決して裕福ではなかったが、母の人柄を慕(した)って、親戚の誰かがいつも家族の一員となっていた。
 母の手はいつも浮腫(むく)んでいた。顔色も悪かった。我慢のできない息苦しさで歩行が侭(まま)ならなくなった時、母と父は心臓の手術を決心した。
 入院先の市立病院で母はいつも楽しげに笑っていた。医師は難(むずか)しい手術ではないと言った。母の顔には希望が生まれていた。それは、家族も同じだった。
「お父さんを、頼むわね」
 たぶん母は、しばらくの間という言葉を付け忘れたのだろう。
 不安を隠して、微笑みながら手術室に入って数時間後、母は人工心肺で生かされているだけの身体で戻ってきた。
「お父さんを、頼むわね」
 なぜ、しばらくのあいだ、を付けなかった。
 置換した大動脈弁から出血が止まらなかったと、沈痛な面持ちで担当医が言った。
「すでに奥様は脳死の状態です。回復する見込みは、もうありません。人工心肺を止めれば死亡が確定します」
 父と子は決断を迫られた。
 殺人を犯そうとしている。
 それも母親殺しの、尊属殺人だ。
 医師は、病院はずるいと愛子は思った。
 もっといい病院にすればよかった。
 人工心肺の強制的な呼吸音だけが集中治療室に大きくさざめいていた。
「奥様は貴重な症例でした。今後の医学のために、解剖(かいぼう)をしたいのですが。お役に立てていただけないでしょうか」
 ごまかしだ。手術の失敗を隠そうとしている。
 父は気丈夫に振る舞った。
「そう、おねがいします」
 父の決断は早かった。声は聞き取りにくいほど不鮮明だった。そして、泣き声だった。
 愛子にはそんな決断は絶対にできなかった。
 たぶん、医師に聞かれたら愛子は泣き叫んでいただろう。
「母を、かえして」
「こちらの書類にお名前を、お願いします」
 医師に差し出された書類を父が受け取った。
「母を、かえして。おねがいだから、母をかえして」
 家族の了承を得て人工心肺を止めたとき、死亡時刻を医師が事務的に告げた。
 機械音が止み、凍て付いた静寂が白い小部屋を支配した。父と子は殺人者となった。
 号泣やすすり泣きが集中治療室に沸き起こった。
 日曜日に、名残が尽きない母の弟たちや妹たちが自然に集まっていた。
 抜け殻(がら)のようになっている父を励(はげ)まし、思い出話をいつまでも続けた。
「お姉さんみたいな人は天国に行っているよな」
「そうね、もう苦しまなくていいのよね」
「いつも笑っていたな」
「あっちでも、笑っているわよ。みんなに好かれて、頼られて」

 悲しさに耐えられず目が覚めた。涙があふれている。止まらない。
 焚き火の炎が揺らめいていた。炎の向こう側に照らし出された白い顔があった。陰影が深く刻まれ揺れていた。黒い眼が炎を越してじっと見詰めている。
「夢を見たのか」
「母が死んだ」
「悲しいか」
「当たり前だ」
「なぜ、悲しい」
「母が死んだんだ」
「誰の死でも、生きている者にとっては、悲しい出来事だ」
「他の誰でもない。母なのだ。なぜ解らない」
 黒衣の男が沈黙した。
 やがて、黒衣の男は両手の平を上に向けて何かを捧げるように頭上に挙げた。その先の梢の上の暗い空を暫く見上げてから、また焚き火に視線を落とした。
「この者から、この者の母の記憶を割(さ)くことができない。この者は、すでに、母と目見(まみ)え、母の生命に触れている。あとは、この者が己の死を知れば、物語は幕を開ける」
 愛子は焚き火の火に暖められて静かに眠っていた。
 やがて、寝顔の眉間に深い皺(しわ)が寄って、火照(ほて)っていた頬が青白く色を引いた。




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『白い森の彼方で』*** Chapter 02 喜び、怒り、哀しみに彷徨して ***
『白い森の彼方で』02

佐藤 均


*** Chapter 02 喜び、怒り、哀しみに彷徨して ***
 
 愛子は父の手と母の手に持ち上げられて、両手でぶら下がっていた。
「重いよ。もう大きいから疲れちゃうわ」
 母が息を切らせて苦しそうだ。それでも嬉(うれ)しそうな満面の笑顔だった。
 母の具合が悪いことは幼い愛子にも解っていた。だから、滅多に無理な甘え方を母にはしなかった。
 でも、今日は特別の日。六才の誕生日に遊園地に行く約束が果たされたのだ。
 愛子は嬉しかった。だから、昔を思い出して、ちょっとだけ母に甘えてみた。
「さあ、今度はお父さんがおんぶしてあげるから」

 森は小高い丘の上にあった。
 大気は凛(りん)として凍(い)てつき、その大気から融(とけ)け出したような冷たい風が吹いていた。
 風は悲しげな音を残して、白く枯れた木々の梢を渡っていった。
 空は雲一つなく晴れ渡っている。透き通った濃い青色は天空に奥行きを感じさせた。
 地は見渡す限りの荒野だった。
 朝陽を浴びて金色に輝く冬枯れの大地は大きな起伏に富んでいた。
 小高い丘や切れ込んだ谷。広大な平原や立ち枯れて点在する白い森。
 水と風と地殻(ちかく)の変動で造形された台地。表層の台地は直角に削られた深い崖(がけ)でその下の台地に被さり、その層はまた下の台地に押し上げられて、幾重にも複雑な起伏を形成していた。
 景色は乾(かわ)ききっていた。蛇行する台地の裂け目は河の跡だった。その蛇行の先に繋(つな)がった荒野の底にある平原は、大きな湖の跡だと教えられた。それらの底や周辺は塩を結晶させて白く輝いていた。はるか遠くには、真っ青な空を背景にした、白い山脈の連なりが地平線に浮かんで望めた。
 その景色の中で高低差を無視するように、道は平坦に緩(ゆる)やかに蛇行しながら地平線の彼方まで延びていた。
 早立ちをした人通りがぽつりぽつりとあり、皆同じ方向に向かって歩いている。
 ゆっくりと歩みを進める彼等の前方には、後ろから昇った朝陽が長い影を落としていた。皆同じような二人連れで、一組の影は前後の影と間を遠く空けて交わることがなかった。
 二人連れの片方は、丈が地面すれすれまでの黒色の外套で身体をすっぽり包んでいた。時折吹く砂塵(さじん)を含んだ突風に煽(あお)られた外套の下は、鈍(にぶ)く黒光りする甲冑(かっちゅう)姿だった。
 左の腰には長めの剣を下げ、その鞘(さや)も黒く塗られていた。
 もう一方は一様に厚手の白い布を身体(からだ)に巻き付けているが、布の白さや輝きにそれぞれ違いがあった。腰の辺りが皆一様に膨らんでいるのは、食料などを包んだ袋を帯びているからだ。
 旅に出て、何度目の朝なのだろう。
 毎日、毎日同じような景色の中を歩いて来た。
 そして、冬枯れた白い森の中で焚き火に暖められて眠った。
 眠りは浅く、毎晩、夢に翻弄(ほんろう)された感情の高まりで何度も目を覚ました。
 炎の向こう側には、焚き火に照らし出された黒衣の男が座っていた。男は口許(くちもと)に小さな笑みを浮かべて、優しい眼差しでこちらを見ていた。
 目覚めるたびの焚き火に暖められた物語を男は楽しげに聞いていた。
 語り終えた時には、夢の内容を全く覚えていなかった。
 ただ、夢を見た、それを黒衣の男に語った、という記憶だけが残った。
 空腹や渇(かわ)きはいつも付き纏(まと)っていた。それでも、朝と夜には少なめの食事を摂(と)った。一食分に分けた糒(ほしい)を湯で戻し、乾燥させた肉と野菜を噛(か)んだ。袋に手を差し入れれば、食糧はいつも指先に触れた。排泄は隠れるようにその辺(あたり)でした。
 このごろでは、そんな日常の生活だけが思い出されるようになってきた。
 いや、男と旅に出て以来、同じ日々の繰り返しだけが積み重ねられている。
 だからといって、昨日はどうだった、二日前はこうだったとは覚えていない。
 とにかく、毎日同じなのだと感じていて、それが当たり前だと思っている。
 今日も、また、同じような一日が始まったのだ。
 黒い甲冑を纏った男は生来(せいらい)無口のようで、無駄な話はしない。それでも尋(たず)ねることには答えてくれた。河の跡も、干上がった湖も、男に教えられた新しい記憶だった。 
「今日も、一日歩くのか」
「そうだ」
「どこまで、歩くのだ」
「陽が落ちるまでだ」
 甲冑は頭部以外の身体の線と大きさにぴったりと合わせ、手の甲や指まで覆(おお)い尽(つ)くされて作られていた。材質は分からないが、薄くて軽そうだった。布に漆(うるし)をかけて固めたような質感で、手首や首回りから覗(のぞ)ける形状は張りぼてのようだった。背の高さもあるが、重苦しい威圧をいつも感じた。男の威圧に促(うなが)されて立ち上がった。
 立ち眩(くら)みがして、ふっと意識が飛んだ。意識の縁(ふち)に男たちの声が浮かんだ。

 教室の中で黒い学生服の男子たちがこちらを見て、何か囃(はや)し立てている。

 意識は直ぐに戻った。
 なぜか悔(くや)しいという感情が湧き起こり、涙で視界が滲(にじ)み始めた。
 思い出しかけていた何かを忘れてしまった。
 何か解らない、不安が渦巻いている。思い出しそうで、何も分からない。
 しばらくは現状も理解できなかった。初めて、三次元的に自分の姿と白い森と黒衣の男を感じた。
 何が何だか急に解(わか)らなくなった。
 目の前では男が身支度(みじたく)を整えていた。
「なぜ甲冑を着ている」
「これが姿だからだ」
 顔の骨格は卵形で小さく、黒い髪が肩まで掛り、抜けるような白い肌をしていた。目は大きくて瞳は黒く、唇は薄く、朱(しゅ)を差し、鼻筋が通っていた。声は低いが明瞭に言葉を発した。
「わたしは、なぜ着ていない」
「それがおまえの姿だ」
 黙ったまま立ち尽くして動こうとしない相手を無視して、甲冑の男は森から街道への斜面を歩き始めた。枯れ枝が踏締(ふみしめ)られて乾いた音を立てて折れた。白い木立が男の姿を隠したが、乾き切った落ち葉が男の所在を明確にしていた。木立の間に男の姿が見えた時、声を張り上げていた。
「聞いていいか」
「いつも聞いている」
「わたしは、何処(どこ)から来た。なぜ、此処(ここ)に居る」
 男が振り返った。黒い大きな瞳が強く焦点を合わせて見つめた。
「なぜそう思う」
「わからない」
「いつからそう思った」
「たった今だ」
 涙に滲んだ視界が黒一色に染まった。
 甲冑の黒色が目の前に迫ってきた。足音がなかった。黒い外套が翻(ひるがえ)って、黒い腕が降り下ろされた。冷たい風が顔に当たった。
 脈が速くなった。呼吸が浅く速い。黒い甲冑が暗闇に変わった。漆黒の大きな獣が森の存在を無視して高く立ち上がった。
 凍てきった突風が唸(うな)りを上げて吹き荒(すさ)んだ。風の圧力に翻弄(ほんろう)されて立っていられなかった。視界が歪(ゆが)んで二重に見えた。身体が大きくふらついた。耐えられなくなって目を閉じた。
 また、意識が飛んだ。一瞬のことだった。
 闇が意識の中に広がって、聞き慣れた男の声が残響した。
「死は夢から始まり、人はまだ死を知らない」

 甲冑の男が身支度を整えていた。動きに無駄がない。
「今日も、一日歩くのか」
「そうだ」
「いつまで、歩くのだ」
「もうじきだ」
 二人は森から街道への斜面を降り始めた。降り積もった落ち葉が二人の足許で乾いた音を立てていた。

「今夜は、この森にしよう」
 白く立ち枯れた木々の間に踏み固められた小道が見分けられた。
 小道はゆるい坂道で、木々の間を縫(ぬ)って薄暗くなった森の奥に続いている。
 男が小道を踏みしめる音に黙って付いて行った。
 森の中を暫(しばら)く歩くと、小部屋ほどの空間があった。
 どこの森もそうだが、まるで焚き火をして、寝るためにわざわざ設(しつら)えたような空間だった。
 黒衣の男は太めの朽(く)ち木を集めてきて、広間の真ん中に小さく井桁(いげた)を組んで焚き火の準備をした。
 井桁の底に小さな小枝やかさかさに乾き切った落ち葉を盛り上げ、その上に大きめの小枝を重ねて置いた。火を点けるときに使う繊維(せんい)の束(たば)に火打ち石を叩(たた)いて器用に火を点け、それを井桁の奥にねじ入れた。
 たちまち薄い煙が燻(くすぶ)り、直ぐに黄色く縁取りされた赤い小さな炎が立ち上がった。
 火は次々に小枝に燃え移り、火力を増していった。
 一通り小枝をくべ終えると、黒衣の男は満足げな視線を焚き火に暫く留めていた。炎は立ち昇って踊り狂うが、一夜の炎の生命(いのち)は男に制御されていた。
「楽しいのか」
 黒衣の男は僅(わず)かな心の揺らぎを見透かされて小さく笑った。
「火を点けるのも、人を導くのも同じ気持ちだ。さあ、食事にしよう」
 黒衣の男は水が満たされた竹筒を、中で炎を燃え盛(さか)らせる井桁の縁に立て掛けた。

 教室の中で黒い学生服の男子たちがこちらを見て、口々に囃(はや)し立てている。
 悔しいという感情が湧き起こり、涙で視界が滲み始めた。
「なぜ、こんなことをするの」
 愛子の腕の中には泣き声を憚(はばか)らない、低い背の肥(ふと)った身体(からだ)が震えていた。
 クラスのほとんどの生徒たちは遠巻きに眺めているだけで、誰も関わろうとはしない。
 愛子と親友の優子だけが信子を庇(かば)っていた。
「おまえたちも、その豚の仲間だ」
「そうよ。おなじクラスの仲間よ。何か違うの」
「へーっ。同じ臭いがするぜ」
「くっせー。くっせー。はーきけがするぜ」
「あんたの方が、よっぽど臭いわよ」
「そうよ、安物の化粧品の臭いが、ぷんぷんするわ」
「なーんだと。なめやがって。ぶっ殺すぞ」
 眉を細く剃り揃えて、髪をハードムースでリーゼントに固めた芳夫が、怒りを露わにして優子の胸ぐらを掴んだ。
 優子は恐怖で顔を引きつらせて、愛子に身体を密着させてきた。
「やめてよ。痛いじゃない」
 優子は負けん気が強く、泣き声は上げないが涙が溢れている。
「よしなさいよ。いい加減にして」
 芳夫と同じような格好の大柄な猛志が、信子を抱きしめている愛子に身体をぶつけてきた。
 愛子たち三人がよろめいて、教室の壁に押しつけられた。
「てめえらな。なめたまねしていると、本当にぶっ殺すからな」
 猛志の仲間たち六人が愛子たちを取り囲んだ。
「殺せるものなら、殺してみなさいよ」
 優子は相変わらず勝ち気だ。
「上等じゃねーか。やってやるぜ」
「うっ」
 猛志が優子の鳩尾(みぞおち)に拳(こぶし)を食い込ませた。優子はその場に崩れ落ちて、吐いた。
「おお、きたねー」
「だから言っただろ。ほんとに、殺すぜ」
「下手な、正義感なんて、虫ずが走るだけだ」
 芳夫の拳が愛子の顔面に飛んできた。思わず目をつぶった。口の横に激しい衝撃がぶつかった。痛みが顔の前面から後頭部に抜けた。きな臭(くさ)い臭(にお)いが鼻の奥に湧いた。口の中に錆(さび)びた味が滲(にじ)んだ。気を失うほどの衝撃ではない。いたぶって、楽しんでいるだけだ。
 怒りが全身を包み込んだ。愛子の中で何かが切れた。
「いい加減にしなさいよ。絶対に許さない」
 その時、教室の扉が慌(あわ)ただしく引き開けられた。
「おまえら、何やってんだ」
 数人の教師たちが駆け込んできた。

 どうにもできない悔しさが心に満ちていた。
 口の中に血の味が残っている。
 目は覚めたが、暫くは起きあがれなかった。
 いつの間にか、男の足許に小枝が堆(うずたか)く積まれていた。
「いつ、小枝を集めたのだ」
「この小枝は、おまえの夢の痕(あと)だ」
 黒衣の男が小枝を焚き火にくべた。炎が大きく燃え上がった。
 きらきら光る火の粉が薄い煙に鏤(ちりば)められて、梢の先まで立ちのぼった。
「人は夢を見て、私に語る。語り終えた記憶は枯れ枝となって身体を温めてくれる。おまえの生命(いのち)はそうやって少しずつ浄化されていく」




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小説「白い森の彼方で」*** Chapter 01 白い森と黒い甲冑 ***
『白い森の彼方で』01

佐藤 均


*** Chapter 01 白い森と黒い甲冑 ***

 耐えられない恐怖から逃げ出したくて藻掻(もが)いた。
 逃げ切れないから叫んだ。叫び声が聞こえて、目が覚めた。
 目を開けて、夢だと知った。
 いつもの夜の光景だった。
 黒い外套(がいとう)に身を包んだ見知った男が焚(た)き火をじっと見つめている。
 この男といつからこうして一緒に居るのだろう。
 年月の感覚は無かった。始まりがいつだったのか、思い出すことができない。たった今始まったばかりなのか、それとも。記憶が時々混乱するので、確(かく)としたところはわからないが、男とは長い年月を共に過ごしてきた、気がする。
 確かなことは、こうして男と共にいることに、何の不自然さも感じないということだ。
「不思議な夢を見ていた」
 夢の内容は反芻(はんすう)しても鮮明に思い出せた。
「どんな夢だ。かなり、うなされていた」
「うちに帰ろうと、駅から歩いていた」
「どんなところだ」
 黒い外套の男が訝(いぶか)しげに語調を強くした。耳の奥から黒い音の塊が頭の中に響いた。
 身近に慣れ親しんだはず、と思われた景色が記憶から消えていた。
 説明をできないもどかしさが苛立(いらだ)たしい。
「思い出せない。なぜだ」
「それから」
「真っ黒で、とても大きな獣が襲ってきた」
「食われたのか」
「ああ、すごい痛みだった」
 痛みがまだ残っている身体を見下ろした。
「夢だ。傷一つ無い」
 確かに傷一つ無い。痛みが消えている。
「不思議だ。おまえに話す端から、どんな夢を見ていたのか思い出せなくなる」
「それでいい」
 黒衣の男が口許(くちもと)だけで笑った。
「どんな夢を見ていた」
「暗闇の中に落ちた。後は、覚えていない」
「少し寒いな」
 黒い外套を纏(まと)った男が立ち上がった。
 男は火種だけになっていた焚(た)き火の上に、数本の小枝を無造作(むぞうさ)に置いた。しばらくすると煙が立ち昇(のぼ)り始めて小さな火を点(つ)けた。
 さらに小枝を足(た)して火を大きくし、太めの枝を組んで設(しつら)えた井桁(いげた)の中に、大小の小枝を次々と投げ入れていった。小枝はいつの間にか男の足許(あしもと)にうずたかく積み上がっていた。
 火が高く吹き上がった。熱がはじけて襲(おそ)ってきた。
 思わず手をかざして、放射された熱を遮(さえぎ)った。
「眠らないのか」
「ずっと眠っていた。おまえの悲鳴で目が覚めた」
「すまなかった。そんなにひどくうなされて、いたのか」
「ああ」
 男はしばらく火の加減(かげん)を見ていたが、納得したように黒い外套に身体を包んで横になった。
「これで、朝までもつな」
 男と女は白い森を街道から少し入った円い空き地にいた。空き地はそれ程広くはなく、二人の上に葉を落とした真冬の梢(こずえ)が折り重なっていた。
 焚き火に照らし出された裸の枝は、不規則に絡み合って天井のように被さり、白く、赤く反射して陰影を揺らした。
 梢(こずえ)の上の空は暗いだけで星は見えなかった。丸く膨らんだ焚き火の光の外側には漆黒(しっこく)の闇が広がっている。
 闇の底のそこかしこに、白い木の森は点在していて、それぞれの森の中で焚き火の炎が揺らめいていた。白い木の影が籠(かご)のようにその明かりを包んでいる。
 近いところの大きな焚き火から、遥か遠くの光と見分けがつくものまで、いくつもの光が星空のように煌(きら)めき、見渡す限りの地上に広がっていた。
 見慣れた光景だが、その現象は、この夜も一斉(いっせい)に始まった。
 闇のあちらこちらから、淡く光り輝く真っ白な綿毛のような丸い塊(かたまり)が、ゆっくりと真っ直ぐに空中に立ちのぼった。
 両手で抱えるほどの大きさに膨らんだ柔らかい光は、穏やかに脈動し、身を寄せ合うように空中で寄り添い、虹(にじ)色の光の霞(かすみ)となって空に昇っていった。
「いつ見ても、生命塊(せいめいかい)は美しい」
 毎夜に起こる現象に黒衣の男が初めて触れた。
 女は、見慣れたものに初めて疑問が湧いた。
「あれは生命塊というのか。あれは何だ」
「浄化(じょうか)された生命(いのち)の塊(かたまり)だ」
「浄化された生命(いのち)」
「そうだ」
 ゆらゆらと漆黒の空まで漂い昇(のぼ)って、やがて、闇に溶け込むように消えていった。
 浄化された生命(いのち)はこんなにも美しいものなのか。
 疑問は何もなかった。
 光を空中に放った後、森の焚き火は次々に消えていった。
 火が消えた分、暗闇が広がった。
 静かだった。激しい炎の中で小枝がぱちぱちと爆(は)ぜていた。
 厚手の布に包まれた身体が温まり始めた。
「暗闇に飲み込まれる夢は誰でも見る。心配するな。朝まで間がない。眠っておけ」
 男の柔らかな声が新たな夢の始まりを誘った。


【2008/11/09 06:32】 | 白い森の彼方で | TRACKBACK(0) | COMMENT(0)
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